どんなスタンダードも彼女流のメロディラインで魔法のように都会的で現代的な美しさに変わるところ。
歌い方は粘っこいのに意外と軽快で明るいリズム感。
気取らない話し方と同じように、歌うときもまるで友だちに話しかけるように自然体な発声。
生来の洒落たハスキーボイス。
声と一体化した自由自在のピアノ。
一枚ごとのアルバムに濃密に漂う空気をリスナーの自宅で再生させるサウンドのクオリティ。
美しくエレガント且つジャラジャラしてないところ。
どんな大物と共演してもシンプルに人間性で対等に向き合っているのが感じられるところ。
音楽の狂人エルヴィス・コステロと晩婚同士でびっくりするぐらい仲良くやってるところ。
などなどなど。わたくしの彼女に対する愛は尽きません。
もともとわたしはコステロのファンでもあり、大昔に何度かコンサートに行った。そのとき「この人は狂ってる。音楽をやってなかったらただの狂人だ。こんな
頭のおかしい人と結婚生活送れる女の人いないかも」と思った。そしたらダイアナ・クラールと結婚して仰天した。あのコステロを本気で好きになって、しかも
仲が良くてラブラブで、42歳で双子まで産んじゃって、全くミラクルだわ!
そんな憧れの姫に初めて会えました♡ この日をどんなに夢見てきたことでしょう。感涙。
会場の昭和女子大学人見記念講堂に着きますと、かなりのオヤジ率でした。40〜60代のオヤジに囲まれる形で着席。まあわたしもオバサンなわけですが。
圧倒的に一人客が多いです。「ダイアナのために俺なりのオシャレしてきた」っていう雰囲気。ちょっといいスーツ。ちょっといい靴。ジャズファンなんだなーという気骨を感じる女子もパラパラいました。
バンド編成は豪華で、腕利きの男たちを6人連れてきていました。ダイアナは黒のノースリーブのミニ丈ワンピース。はわわわわ、かわいい♡
演奏が始まると、完全にジャズクラブでした。あれっ、どうしてこんな大きな会場でジャズクラブ形式なん?
と思った。ステージの上で演奏がまとまっていて、大きな会場に放出している感じではなかった。音量も音圧も控えめで、客席の前半分までしか音が届いていな
いと感じた。
しかし2曲目、3曲目と空気を回すような曲をやり、4曲目ぐらいから音が会場全体に届き始めた。空気が温まるってこういうことか。そこからはもう心が虜に。
今回は「Wallflowerツアー」ってことで、最新アルバムからの曲を何曲かやりました。そうじゃない曲のほうが多かった。ナットキングコールとかトムウェイツとか。基本的に好きな歌、今日歌いたい歌を歌ってんだなあと思った。案外ガッチリ準備してんのかな?(笑)
新譜からの曲では、タイトル曲の「Wallflower」とイーグルスの「Desperado」が印象的だった。
「Desperado」はわたしもこれから歌おうと思ってる曲で準備中なんですが、正直どう歌ったら良いのか悩んでいた。ダイアナの歌を生で聴いて、「歌いたいように歌えばいいんだなあ」と単純に思った。なんてシンプルな答えなんだろう。しかしこれが真実であり本質だ。
バンドのほうも基本的にダイアナっぽいサウンドっていうのは守りつつ、かなりノリノリでインタープレイしまくっていた。ただ割とわかりやすい展開中心で、そこは大ホール向けを意識していんのかなあと思った。
途中、リクエストコーナーなどもあり(笑)、サービス精神あるなあ。「Fly me to the moon」をやってくれた。
これも今わたしが練習中の曲。このセクションはこういう発声でこう歌って‥‥などと考えあぐねているわけですが、ダイアナは歌と自分が一体化していて、体から出てきた音そのものが今日の正解なのだとでも言うように自由だった。
とにかく彼女は歌とピアノとトークと表情と動きが全部ナチュラルに有機的につながっている。こんなに気負いがないのに最高のパフォーマンスができるんだなあ。稀有なお方だ。
今日のコンサートは最高だった。生きているうちに本物のダイアナ・クラールに会えて良かった。本当に良かった。人生の記念日になった。
願わくばいつかはブルーノートぐらいの小さな小屋で彼女のライブを見たい。それで思い切りジャズをやってほしい。
ありがとう、ダイアナ姉さん。また逢う日まで。逢えるときまで。