IID世田谷ものづくり学校で行われた、「響会~竹あそび」のワークショップに参加しました。世田谷公園のお隣にある、公立中学校の跡地です。
楠瀬誠志郎さんによる、日本の美しい音を鑑賞し、塚田有一さんの生け花をライブで鑑賞し、参加者全員で生け花作品を創る「めぐり花」の手法を体験し、石田紀佳さんが用意した竹づくしのお弁当を味わうという、なんとも贅沢なワークショップです。
楠瀬先生が聴かせてくれたのは、湯瓶竹笙(ゆがめちくしょう)の音。その昔、お大名様のお屋敷で、朝から焚かれる湯船の湯が流れあふれるのを利用して、出入りの職人たちが豆や餅を竹の中に入れて吊し、温めて食べたという大きな瓶の音なのだそうです。
まるでクリスタルボウルのような美しい倍音が、皮膚から肉へ、肉から骨へ、骨から心へと響きました。瓶の音と、せせらぎのような水の音、竹が響く音。時代や場所を飛び越えて、日本人のDNAに訴えかけてくるような美しい響き。私たち人間は、豊かで幸福であって良いのだなと、何かの赦しを得たかのような安心感を受け取りました。
どうしてこんなふうに、竹の音は私たち日本人の心に無条件に響くのかというお話がありました。竹という植物が持つさまざまな特性が、日本人の感性に響くのだということを具体的に聞き、ああ、そうなのだと思えました。ちょっと抽象的に書いてみます。
竹の音は人間の体が持つ音に似ている。竹には空洞がある。体はカラだ。そこに何か入れられる。
謎解きしてみてください♪
続いて、塚田有一さんのライブ生け花。生け花を活けるところを見るのは初めてです。かぶりつきで見ていた私が感じたのは、花は活ける前にすでに完璧であり、活けることによって人間と融合して芸術になるということ。塚田さんの手が花や枝や葉に触れるたび、新たな生命が宿っていくことを感じました。
思ったより、計算を感じなかったのは意外でした。塚田流なのでしょうか。全体と細部のバランスをトータルで考えるというよりも、トータルのイメージは見る人に委ねて、もっと大きな枠で世界観をこの花の周囲の空気全体にまとわせるような感覚。一つの宇宙であり、刻々と変化するものであり、見る人によって変わるもの。そんな印象を持ちました。
さあ次は、「めぐり花」。参加者全員が草木花を摘み、一本竹の花器に向かって大勢で順番に花を活けていきます。
塚田さんが、こういうイメージのものを集めてきて。と課題を出してくれました。だからとても集めやすかった。
生け花なんてやったことがないしできないよと思っていましたが、これが意外に面白い。まさか学校の裏庭に花を摘みに行くとは思いませんでした。ただ普通にぼんやりと歩いていると「草むらだな」としか思わない緑が、こんなにもたくさんの表情を重ねた森であったなんて、本当に気がつきませんでした。
花があり、実があり、蔓があり、枝があり、葉があります。赤、白、黄色、緑、茶色、紫、ピンク。手が届かない場所にあるたわわの実を、脚立に乗ってぴっぴさんに取ってもらいました。雨上がりの草むらで、服も濡れ、足もぬかるみ、大変だったと思います。私も蚊に食われました。でもそんな皮膚感覚もまた、生け花の醍醐味なのかなあなんてことも感じました。
6人×6チームで2種類の生け花を活けました。ひとつの生け花を3チーム合同で作ったのです。勝ち負けではないので、共同作業でできるだけ美しく、流れを生むように。途中、塚田さんがさりげなく手を入れてくれて、とても素人の作品とは思えないフォルムができあがっていきました。
正直、こんなに素敵な作品に仕上がるとは全く思わなかったです。七夕をテーマにして、月と星を表現しました。ひとつひとつの花の活けた位置や形に、みんながちゃんと意味を与えていて、素晴らしいなと思いました。
生け花には無限大の価値と意味がありますね。めぐり花に参加したことで、安らぎと自尊心とイマジネーションを増幅させてもらえました。
すごーく心がほぐれたところで、夕餉の時間です。
石田紀佳さんと、3人のノラ娘の皆さんによる珠玉の竹の膳。飲み物は純米酒か、笹茶。笹茶は、私の大好きな熊笹茶に似た味でした。甘く爽やかです。
お弁当の中には、たくさんの竹モチーフが。ちまき、蕗の筏、竹輪に見立てた酒粕パン、IIDの庭で穫れた野菜のサラダ、見た目が竹に似たズッキーニの串刺し、筍の穂先に梅を添えたもの、筍の姫皮を紅色に染めたものなど。
実を言うと私は筍が少し苦手で、事前に相談してしまったぐらいなんですが、全くえぐみがなく柔らかく、素晴らしい風味のお膳でした。本当に美味しいところを寄せ集めて、丁寧に調理してくださった過程が心の奥にジンと伝わるような味。響会のお食事は、腹ふくるる為のみならずといった愛ある主張を感じました。
2時間半の予定のワークショップが、3時間ちょっとになりました。とてもとても充実して、あっという間に時間が過ぎてしまいました。こんなに価値のある3時間は、なかなか得られないのではないかと思うほどの心の満たされ感です。
アーティスティックなワークショップだから、もっと背伸びした感じになるのかなと思っていたら、普段の自分以上に素になれるような、ラクになれる、心地良い時間でした。
塚田さん、石田さん、氏家さん、楠瀬先生、ひとし先生、参加者の皆さん、ありがとうございました。
響会のワークショップは、また9月に六本木で行われるそうです。その日が来るのが楽しみになりました。皆さんまたお会いしましょうね。