スパイス料理研究家の香取薫先生と、ライター&フォトグラファーの新井由己さんご夫妻を囲んで、絶品のスリランカ料理ディナーを楽しみました。突然のお招きにもかかわらず集まってくださった12人の皆様、どうもありがとうございました。
場所は、青山一丁目交差点からすぐ近く。スパイシービストロ タップロボーンという名前のお店。「美味しいスリランカ料理を食べたいならこのお店!」と、香取先生が連れてきてくださった。
日本初のスリランカ料理レシピ本、「家庭で作れるスリランカのカレーとスパイス料理」が刊行されたばかりの香取先生。何度にもわたり、スリランカの現地で食文化を実体験し、取材した経験が、生命力あふれる息吹となって根付いているレシピ本です。
タップロボーンの皆様とは日頃から懇意になさっているご縁。今夜のコース「タップロボーンロイヤルエンジョイセット」の構成も香取先生が考案したのだそうだ。
4名以上で予約すれば、誰でも食べられるフルコース。これだけ充実した内容で、お値段はワンドリンクつき4000円! スリランカ料理初心者の方にもお薦め。定番的なものが一通り出て、お店独自の工夫もここかしこに光っているという、まさに食べる喜びを与えられるコース料理。
ここからは、同席のTさんのブログからの引用。
あまりにも適切な文章なので、お借りしてしまいました。
「さてさて、スリランカは、昔はセイロンと呼ばれていたところ。インドの隣にあります。
ところでスリランカ料理ってどんなのだろう?と想像つかない方も多いと思いますが、みなさん知ってますか?
実は日本に共通するところがあります。
まず、島国であること。
そして、「鰹節」があること。
聞いたことあるかもしれませんが“モルジブフィッシュ”というものがあるのです(日本の鰹節のように固くはなく、たたくとすぐもろっと崩れます)。
お隣のインド料理には、ダシをとるという概念はないのですって。
世界で鰹節を使うのは、たった2国だけ。それが、日本とスリランカなのだそう!それならきっとスリランカ料理って日本人の舌に合うに決まってます。うんうん」
全くですよ、本当に日本人の舌に合うのです。どの料理も、どこか日本の味に根底が似通うところがあって、ホッとする。日本と同じ長ねぎを使ったり、鰹節を使ったり、白米に乗せて食べると美味しいごはんの友みたいなお総菜があったり。
じわじわと辛さを感じる中にも、うまみとコクと香りがあり、辛さに理由を感じる。かといって、辛い料理ばかりの連続でもなく、甘さが引き立つ料理、サラッとスナック感覚で食べたい料理、野菜メインでフレッシュな食感のものなど、変化に富んで飽きない。
10年以上前、私が都立大に住んでいたとき、家の斜め前にある東光寺というお寺の境内で、年に一度だけスリランカカレーを売る日があった。確かお花祭りの日だったと思う。スリランカの子どもたちの教育環境を整えるためのバザーだったように記憶している。
そのチキンカレーがあまりにも美味しくて、普段からスリランカカレーが食べられないものかと、必死で探したことがあった。
結局、その頃私が出会った数少ないスリランカ料理店には、同じような美味しさのカレーはなかった。なんだかみんな薄くてしゃぶしゃぶしてた。
時を経て今、こんなに美味しいスリランカ料理を、こんなに豊かなバリエーションで食べられる場所が見つかるなんて。お釈迦様に感謝したいような気持ちでいっぱいだ。
サラダ。
甘辛いドレッシングが適量まぜてあり、フライドガーリックの力強さが食欲をかきたてる。
カトゥレット。
ポテトと魚の丸いフライドスナック。スリランカではパーティーの定番。小さいコロッケのようなもの。具の野菜に、しっかり魚の出汁が効いていて美味しい。
レッドチリカラマリ。
イカの揚げ物を甘辛く中華風に炒めたもの。揚げてあるのに油っぽくなくてシャキンとした味。おかずになる〜。普通に日本と同じ長ねぎが入っている。スリランカでも長ねぎは定番素材なんだそうだ。インドでは滅多に使わない。
ゴダンバロティの生地をのばすシェフ。タネになる生地は、頭の上から地面のあたりに置いた壺をめがけてドッシーン!と50回ぐらい叩きつけるんだそうだ。夜は作れないぐらいうるさいから昼間しか作れないんだって。
みるみる薄くなっていき、もう透き通るぐらいまで延ばしてる。生地がツルツルに輝いている。
後ろのガス台ですぐ焼き、クレープ状に薄く重ねていく。
ゴダンバロティの焼き上がりっ!
薄い生地がふんわりとハンカチのように折りたたんである。手でちぎると弾力を感じるぐらいに強く、口に入れた瞬間はふわっと軽くクリスピーで、噛んでいるうちにもちもちしてくる。あえて味つけを排除した、非常にプレーンな味。小麦粉そのものの味が美味しい。
スリランカでは、最初にパンにカレーやお総菜を包んで食べて、そのあとライスにカレーやお総菜をかけたりまぜたりして食べるのだそうだ。パンとライスを一緒には出さないのがスリランカの流儀。
あとから新井さんに伺ったお話では、パン系とライスを同時に出さず、順に出てくるのはインドも同じ。インドではワダやドーサを先に食べ、ライスはあとに出てくる。チャパティでライスとカレーを包んで食べたりはしないんだとか。なるほど言われてみれば、インド料理屋さんでは私もそうやって食べていましたね。今まで気がつかなかったなー。
ミートカレーその1。最初はチキンのカレーが出てきた。
見た目や想像と違う味がした。やっぱり鰹出汁が効いているのはうまみを底上げする力が強い。そしてスパイスを香ばしく煎ってから使うのがスリランカ流なんだそうだ。このスモークのような香ばしさ、そういうことだったのか。インドカレーとだいぶ違う。もちろんどっちも好きだけど。食べやすい大きさの骨なしチキンに、なんとはなしに心が和む。
野菜のテルダーラ=炒め物。
これもゴダンバロティに包んで食べる。長ねぎ、ポテト、いんげん、玉ねぎなど。フレッシュのカレーリーフも入ってますな。甘すぎない甘さがたまらない。あとから辛くなってくる。生きのいいスパイスが野菜を美味しいおかずにしている。
エッグゴダンバ。
目玉焼きをゴダンバロティで包み焼きにしたもの。こういう軽い味のものをはさむと、甘辛かったりする料理の味がよけいに引き立つ。この目玉焼きもあえて味つけしていないところが最高にいい。目玉焼きうまし。
パリップ。レンズ豆のカレー。
スリランカの家庭料理の定番。インドのダールに似ていて、ココナッツミルクが入っているのが特徴。茶色いのはフライドオニオン。まろやかな口当たりで、他の料理とまぜるとますます美味しい。
ポルサンボーラ。
ココナッツとかつお節のふりかけ。ポルはココナッツ、サンボーラは混ぜた料理のこと。「これぞスリランカの味」なのだそうだ。ライスにかけて混ぜて、その上からまたカレーをかけて食べるの推奨。鰹の味の鮭フレークのようでいて、ココナツの繊維質の存在感もバッチリで、不思議な美味しさ。辛味はない。毎日の食卓のお供にしたくなる。瓶詰めで売ってくれ!
コラサンボール。ココナッツ入り青菜のサラダ風。さっぱりとして非常に美味。これメインというより、ポルサンボールやカレーにまぜて引き立て役になってもらう感じ。このポソポソしたココナッツの軽さと、青菜の弱々しい薬味感がたまらない。
ライス。そうよ〜〜〜、やっぱりこういうときは日本米じゃないほうが美味しい。
パパダム。
クリスピーな豆粉の揚げスナック。このまま食べても崩してライスにかけてもOK。香取先生の本には、カレーの合間につまんで食感を楽しむんだって書いてあった。楽しいよー楽しいよー。
パリップ、コラサンボール、ポルサンボーラ。究極のスリランカ風三色丼? まぜて食べると美味しさが増す。粉々に砕いたパパダムをかけるのも素敵!
ルヌミリス。
唐辛子のペースト。辛いんだけど美味しい。海老のようなオキアミのような深い風味を感じた。これもさっきの三色丼にまぜるとランクアップ!
二皿目のミートカレーは、ポークカレー。
これもスパイスが煎ってあり、インドカレーともヨーロピアンカレーとも違う味がする。サラッとしていながら、スパイスの味わい豊かで、しゃぶしゃぶした感じや薄い印象は全くない。そうか、スリランカカレーはやっぱり美味しかったんだ。
野菜カレー。
かぼちゃとポテトとにんじん。これはほっこりした味。わりと見た目通り。シチューに近いかも。
ミーキリ。
ヨーグルトのキトゥル蜜かけデザート。水牛のミルクで作ったヨーグルトがミーキリ。キトゥル蜜は蜂蜜と違い、椰子の木から採れる天然のシロップ。その採取法の手間暇を香取先生にお聞きし、希少性を知ると、一滴も残すわけにはいかないと思った。
これが砂糖無添加だなんて信じられないぐらい、しっかり甘い。蜂蜜にも似た、上等の黒蜜のような風味。実に美味しい。買ってくればよかった。ソーワアイスにかけて食べたい。
セイロンティー。
大満腹、大満足でディナー終了。「食べ尽くしたーーっ!」という実感。スリランカ料理がこんなに美味しいなら、もっと日本にたくさんできればいいのになと素直に思った。思いっきり日本人に馴染みやすい味なはず。自由が丘にも、これぐらい美味しいスリランカ料理屋さんができないかな?
客席。全部で24席のこぢんまりしたお店。清潔で落ち着いていて、居心地はすこぶる良い。オープンキッチンがピカピカだった。
香取薫先生の近著、「家庭で作れるスリランカのカレーとスパイス料理」。目がくらむほど美味しそうなレシピの連続。コラムも面白いです。香取先生は文章の名手でもあるのだ。
ご同席の皆様、ありがとうございました。なぜか今日のメンバーは、世界を旅している人が多く、話題が広がって殊更に楽しかったです。また世界の料理と日本の味をコツコツ訪ね歩きましょう♪