<重要な追記>
ナシームシェフは、2013年1月に退職なさいました。今ではこのお料理を西麻布で食べることができません。ナシームさんの動向がわかり次第、また追いかけます!
インド料理研究家の香取薫先生と、旦那さんの新井由己さんにお誘いいただき、西麻布のヴィナーヤで食事会を開催しました。
あるとき新井さんから、「弘前や岐阜まで彼の料理をわざわざ食べに行く追っかけがいるぐらい人気のインド料理シェフがいる」と聞いた。そのシェフの名は、ナシームさん。以前は江古田のスワガットというお店で腕をふるっていて、インド料理ファンの間で大評判だったそうだ。
ナシームさんがスワガットを辞め、弘前や岐阜のお店に転職すると、東京からそちらまで出向いて食べる人が続出したのだという。
そんなナシームさんが、晴れて東京のお店に帰ってきた。2012年4月、西麻布サムラートの跡地にオープンしたばかりの新店ヴィナーヤだ。ナシームさんのお兄さんとお友だちの3人で切り盛りしている。外苑西通りのアパホテルの並びにある。
私は六本木のスワガットしか行ったことがなかったので、ナシームさんのお料理をいただくのが今回が初めて。作り手としてだけでなく、食べ手として厳しい目を持つ香取先生が、太鼓判を押す一流シェフなのだ。どうにも期待値が上がる。
「わじょさんのお友だちを何人か誘って食事会をしましょう」と言われ、なんとなく思い浮かんだ人たちに声をかけたら11人も集まった。驚異の参加率。インド料理の引力おそるべし。
日本が誇るインド料理研究家、香取薫さんの解説つき豪華ディナーの開幕!
予約の一切合切を新井さんと香取先生にお願いして、食べに行くだけ♪ なんともお気楽な幹事です。グランドメニューにはない特別料理のオンパレードになる、「シェフのおまかせコース」を頼んでおいてくださった。
ちょっと驚きの展開です。いや、かなり。おそるべきハイクオリティな料理が、テーブルに載りきらないぐらい次々と運ばれてきた。すごく念入りに準備して作られた最高級のお料理ばかり。
香取先生は、「家庭で作る本格インド料理」という本を、ナシームシェフの協力を得て出版したことがある。それぐらい緊密な関係性がある。シェフの気合いも相当だったことが、料理の味から伺えた。何日かかけて丁寧に準備してくれていたのではないのかな。
最初のタンドール料理からして、次元が違う。なぜにこのように柔らかくふっくらとしているのでしょうか? 火入れの技術がめちゃくちゃ高い。シシカバブ、チキン、海老の3種類。いずれもスパイスが濃すぎず、素材の味を引き延ばす程度にバランス良く味つけしてある。
このシシカバブのラムラム感。ふっくらとした、馥郁たるスパイスの妙味。かつて味わったことのないタンドール料理の世界です。
タンドール料理に添えられた、ミントのソースも良いお味。味つけが強すぎず、しかし十二分にソースとしての効果を発揮している。このソースだけ舐めても舌鼓打ちたくなる。
飲み物はマンゴーラッシーにした。
タンドリーチキン入りカチュンバル。カチュンバルは、酸味をきかせたサラダのこと。スライスしたオレンジが添えられている。キュウリやひよこ豆がドレッシングに揉まれてこなれている。オレンジと一緒に食べると一層美味しい。
ロティ。パリッとした焼き加減。食欲が増す。
葉っぱに包んだ白身魚の蒸し焼き。
この魚料理の美味しさを、どう伝えたらいいのかわからない。これは日本全国追っかけたくなる味だよなと思った。
葉っぱと魚の間にコリアンダーを練り込んだソースがぺたっとはさまっていて、そのソースと魚のまじわり加減がたまらない。もうどうしてこんなに美味しいんだろう?
パコラ。たまねぎなどスライスした野菜を、ひよこ豆の粉で天ぷら風に揚げてある。このちぎり揚げみたいな大きさが良い。
パコラって薄っぺたいお店が多いけど、こんな風にダイナミックに作ってもらえると衣のサクサク感と、スパイスで調理された具のお総菜感が楽しめていいな。さっきのミントソースをかけるとますます美味しい。
たたみ込むように美味しさの嵐が! こちらはベジタブル・ビリヤニ。他のメニューに肉料理系が多かったので、ベジタブル・ビリヤニがちょうどよかった。
本当のビリヤニは単なる炊き込みご飯ではなく、カレーとライスを何層かに重ね、パンの生地で鍋のフチを囲み、蒸し上げるという手の掛かる料理。この手順を踏んできちんとビリヤニを作っているお店は少ない。
私など炊き込みご飯的なビリヤニも大好きなんだけど、やっぱりこういう本格的なビリヤニに出会うと感動もひとしお。すごい贅沢をした気分になる。ライスの白いところと黄色いところのラフなまざり具合がたまらない。
ほろほろパラパラのバスマティライスの食感と、ふんわり蒸気とともに香るスパイスが素晴らしい。
ビリヤニにはライタが欠かせない。ライタは野菜とスパイス入りのヨーグルトソース。慣れないうちは、ごはんにヨーグルトをかけるなんて!という衝撃があるが、やってみると病みつきになる。うっかりするとビリヤニが冷えるほどライタをかけてしまう。
カストリチキンカレー。これぞナシームさんの極めつけ。一口食べて、動揺する。天井に頭を打ち付けそうなぐらい美味しい!
バターチキンカレーともサグチキンカレーとも別の美味しさ。酸味とコクと甘さと深さ、そしてうまみと爽やかさ。なんとも言えない複雑な妙味。この抜群のバランスは、シェフのセンスならではなのでしょう。誰が真似して作っても、こうはならないと思う。
「ナシームさんのカストリチキンが食べたい」と、弘前や岐阜へ行った人の気持ちがわかる。
シェフはスパイスをミルで挽くのに3年の修行を費やすほど努力を重ねてきた人なのだという。インドの一流ホテルで腕を磨いたのだそうだ。(ミルってコーヒーミルのミルみたいな機械じゃなくてスパイスを挽くための石のまな板みたいなやつ)
カレーにもライタをかけると美味。
まだまだ。怖ろしく美味しい料理が怖ろしいほど出てきます(笑)
これはまた特別な料理。ジャガイモやピーマンなどの野菜のドライタイプのカレー。普通、お店ではこんな料理食べられません。じゃあどこで食べられるのかっていうのも返答に困りますが、腕利きの料理人が身内や特別な人にしか作らない味だと思う。
見た目、地味で全く想像がつかないかも。手が込んでいて本当に味がいい。ヴィナーヤのすべての料理に言えることとして、とにかく味が濃すぎなくて味わいは深い。シェフの天性というものを一皿ごとにしみじみ感じる。
一連のカレーには、このチーズナンをつけると美味しさアップ!
これはマトンカレー。マトンカレーといったら通常、羊肉ですが、インドの本来のマトンカレーは山羊肉を使うのだそうだ。今日のこのマトンカレーは、山羊肉を使っている。普通のマトンカレーと味は似ているものの、肉の柔らかさと品格が一枚うわてだった。
肉だけでなく、カレーソースの味も絶品。サラッとしてるけど全然薄くない。今日のカレーは全部ベースが違って面白かった。
最後のカレーがこちら。海老と野菜のドライタイプカレー。カブや茄子などがカラッと軽い感じでまざっていて、今までとまた違った食感。これもなかなか食べられない味ですね。
そんなに素材としては超高級というわけではないのに、これだけの味の極みを作り出す人間の能力というものにひたすら敬意を表したい。スパイス使いのワザが圧倒的。
あと、加熱調理のタイミングがすごい。スパイス料理は特に、一瞬の間合いで味が変わる。その見極めは、常に五感を研ぎ澄ませていないとできないものだ。
デザートは、お米のミルク粥。優しい味。心がほっこりする。お釈迦様が悟りを開いたときに召し上がった食べものなのだそうだ。そのミルク粥を献上したのがスジャータちゃんという村娘なんだって。スジャータ♪スジャータ♪ そうだったのか。
最後はミルク抜きのお茶でさっぱりと。
驚異の胃袋を誇る11人が、全力疾走で食べ尽くした夜でした。私としても、こんなにバクハツしそうなほどおなかいっぱいになったのは実は久しぶり。意外にバイキングなど行っても欲張らなくなった私の欲が底なしになるインドの味だった。
帰宅後、感動を語り合うメンバーのツイートさえ、異常なほどに熱かった。
今日ご紹介したようなお料理は、グランドメニューには出ていません。必ず「シェフのおまかせコース」を予約して食べに行ってくださいね♪
昨日ご一緒してくださった皆さん、ありがとうございました♪