うますぎてドン引き。ブルーノート東京、パット・メセニー。

ブルーノート東京で、パット・メセニーのライブを見てきました。

ジャズをお好きな方ならご存じと思いますが、現代ジャズギタリストの頂点を極める人ですね。私は20年以上前から好きで、もう彼のCDは何千回繰り返し聴いたかわからない。ファンというより崇拝に近い。

でも実はライブを見るのは今回が初めて。なぜなら私以上に弟がメセニーの熱烈な信者で、弟を差し置いて私が行くのは気が引けたから（笑）

弟はライブというものに行かないタイプで、今回も誘ったら行かないというので一人で行くことにした。最近、身近な人が若くして急死したこともあり、「人間いつ死ぬかわからないからやれる範囲でやりたいこと全部やれ」と本気で思っているので。

木曜夜のファーストステージ。開演30分前に行ったら席はアリーナの一番後ろだった。ステージまで20mといったところだろうか。ステージは奥半分が黒いカーテンで物置みたいに何か隠されていた。

場内は超満員。客層は、ちょっといいとこの会社員ぽい人とか、いかにもオーディオやっていそうなおじさんや、レコード何千枚も持っていそうな音楽ファンといった感じの人たちが多かった。かなり大人。外国人率は低かった。ボーダーシャツ率も低かった。ギター命のギタリスト系男子が多いのかと思えば、そうでもなく。

時間ちょうど。メセニーが登場した。おおっボーダーシャツじゃないわ。メセニーのトレードマークはボーダーシャツなのだ。これじゃ普通に歩ってたらメセニーだってわからないよ！（歩ってないだろ）

それより髪型がものすごくて。でっかいライオンのぬいぐるみみたいだった。あれはどうやってセットしてるんだろう？　しかし本人の存在感と相俟って、非常に似合っておる。

最初はソロ演奏。ネックが3本あり、一人で3人分弾くギターで。あまりにもうまくて、CDを流しているのかと思った。「登場曲のCDかな？いつ本当に演奏するんだろう？」と本気で途中まで思ってた。だって一人で出せるような音じゃないし (^^;　しかもクオリティがCDレコーディング級。

思わず手を合わせて拝んだ。南無パット・メセニー様。神ながらさきわえ給え。これは本当に神だ。神風が吹いて私の顔面と胸部を吹き荒らした。メセニーが好きだからというより、実際そんな感じがした。オーラなんだろうか。本人は至って自然体なんだが。

そのあと、ベースのラリー・グレナディアが登場。二人体制で演奏が進む。かなりの至福感に酩酊する。もっとエキサイトするかと思っていたら、完全に初っぱなからやられてしまい、身も心もグズグズ。気持ち良くぐったり（笑）完全に心のド真ん中に入った。

あまりの演奏の素晴らしさに、場内水を打ったような静けさ。うますぎてドン引きする聴衆たち。メセニーが「あんまり真剣に聴きすぎないで（笑）」とMCで言っていたような感じがする。（英語わからないから勘）

でもみんな最後まで超真剣に聴き入っていた。普通こういうライブハウスは、もう少しガヤっているもんだ。能楽の舞台みたいじゃったよ。メセニーの一挙手一投足に全聴衆の全神経が集中！　みんな本当に好きね。おう、私もよ！

ただひたすらにメセニー本人は音楽をちゃんと楽しんでおり、そのたおやかさ、彩り、広がり、すべてが素晴らしかった。この融合感。大好きな人と突然両思いになったような驚き。ステージまで20mもあるのに、私だけに向かって演奏してくれているような抱擁感を感じた。きちんと届いている。もちろん私だけでなく、全員に届いているのだ。

途中、後ろの物置風カーテンが開き、オーケストリオン装置が出てきた。大がかりな自動演奏装置ですね。こういうの現代美術の美術館で見たことある。かなり夢の世界っぽい。こういったものを真剣に操る人をクレイジーと思わずにはいられない。いい意味で！！

メセニーは「オーケストリオン」ていうアルバムも出していて、実験的なことが好きな人なのだ。

あんまり完成度は高くなかったが、面白いもの見せてもらった。メセニーは観客そっちのけでオーケストリオン装置のほうを見つめていて、実に心配そうでもあり、楽しそうでもあった。

夢のような1時間半ほどのステージ。ラストは意外な曲だった。日本の曲。私のほうがよく知らなかった。ジブリの曲だったらしい。

ブルーノートのファーストステージはいつもあっけなく終わる。何しろセカンドステージの準備があるから（笑）

それはわかっているのだけど、こんなに心地よく濃密な時間だったのに。スーッと涼しい風が吹くようにメセニーはステージから去っていった。終始自然体だ。神様ってこんな感じなんだよな。

生きているうちに神様に会えて良かった。

それではいつの日かまた。バンド形式のパット・メセニー・グループでの来日も期待しております！